このページはPR・広告を含みます

インドの養殖投資が拡大、循環式養殖が変える水と土地の使い方

インドの養殖投資が拡大、循環式養殖が変える水と土地の使い方を表す陸上養殖施設のイメージ

ニュースの概要

インドで、気候変動や水不足への備えとして、水を循環させて魚を育てる循環式養殖システム(RAS)への支援が広がっている。政府の漁業振興制度PMMSYでは、RASのユニット1万2,000件が承認された。投資額は約90億2,970万ルピーにのぼると報じられている。RASは使った水を浄化して再利用するため、少ない水と狭い土地でも魚を高密度で育てられる。あわせて、微生物の働きで餌の食べ残しや排せつ物を処理し、そのまま餌資源として活用するバイオフロック技術にも関心が集まっている。インドは世界有数の養殖国であり、従来型の池に頼る生産から、設備と管理で品質を安定させる方式へと重心が移りつつある。

引用元: インド、RASを含む次世代養殖技術への投資を拡大(AgroSpectrum India)

分析・見解

1万2,000ユニットの承認が示す政策の本気度

数字の大きさにまず注目したい。承認されたRASは1万2,000件、投資額は約90億ルピーである。単純に割ると、1件あたり約75万ルピー(日本円で数十万円規模)になる。これは大型プラントではなく、小規模な農家や協同組合が導入できる中小規模の設備が中心だと読める。政府が「少数の大企業」ではなく「多数の小さな担い手」を育てようとしていることがわかる。

インドの養殖は、これまで東部の淡水池に大きく依存してきた。池は安価だが、雨期の洪水や干ばつ、水温の変動に弱い。補助制度でRASを広げる狙いは、天候に左右される産業を、工場のように計画できる産業へ変えることにある。

水を使い回す仕組みは、節水と防疫の両方に効く

RASの本質は、水をろ過して再利用することである。ろ過槽の中ではバクテリアが、魚が出すアンモニアを毒性の低い物質へ変える。この仕組みにより、水の交換量を大幅に減らせる。池養殖に比べて必要な水が桁違いに少ないと言われるのは、このためだ。

もう一つの利点は防疫である。外部の水を大量に入れないので、病原体が入り込む経路を絞れる。エビ養殖では白斑病などの感染症が長年の悩みだった。閉じた系で管理できれば、被害を小さくできる。

バイオフロックは、微生物のかたまり(フロック)を水中で育て、有機物の処理と餌の補完を同時に行う技術である。餌代が生産費の半分前後を占める養殖では、餌の利用効率が上がるだけで利益が変わる。ただし、水の中の微生物の状態を毎日見張る必要がある。

日本の陸上養殖が先に味わった電気代と人材の壁

独自の視点を一つ挙げたい。RASの成否を分けるのは、水より先に電気と人材である。日本でも陸上養殖ブームでサーモンやトラフグの工場が各地に立ち上がったが、ポンプと酸素供給と温度管理の電気代が想定を超え、採算割れで撤退した例が出ている。

インドも事情は似ている。地方では停電や電圧変動が珍しくない。止まれば数時間で魚が死ぬ。補助金で設備は買えても、非常用の発電機、水質を読める技術者、故障時の保守体制が整わなければ、1万2,000件のうち相当数が稼働率の低い設備になる恐れがある。

今後は設備の台数より、運転できる人の数が競争力になる

今後の焦点は、承認から稼働、稼働から黒字化へ進められるかである。成功する地域は、設備メーカー、種苗業者、飼料会社、水質管理の教育機関が近い場所に集まる。ノルウェーのサーモン産業が、機器メーカーと研究機関を含めた産業群として強くなったのと同じ構図だ。

インドが国内の需要と輸出の両方を狙うなら、トレーサビリティ(=誰がどこでどう育てたかの記録)も武器になる。閉鎖系は抗生物質の使用履歴を管理しやすく、輸出先の残留薬剤規制にも対応しやすい。

ビジネスへの影響

設備メーカーと水処理企業には大きな需要が生まれる

1万2,000件の承認は、ポンプ、ろ過装置、酸素供給機、センサーの需要を意味する。日本の水処理や計測機器の企業にとって、小規模でも壊れにくく、保守が簡単な機種は強みになる。ただし価格競争は厳しい。単品販売ではなく、水質管理のノウハウと遠隔監視をセットにした提案が現実的である。

日本の養殖事業者は投資判断の物差しを学べる

国内で陸上養殖を検討する企業は、インドの動きから二つの教訓を得られる。一つは、設備費より運転費の試算を先に固めること。電気代、人件費、斃死(へいし=魚が死ぬこと)時の損失を、保守的に見積もる必要がある。もう一つは、小さく始めて段階的に増やす進め方である。小規模ユニットを複数並べる形は、失敗の影響を限定できる。

水産物の輸入側は調達先の変化を見ておく

エビなどを輸入する商社や外食企業にとって、インドの閉鎖系養殖の拡大は、品質の安定と供給の平準化につながる可能性がある。一方で、補助金頼みの事業が行き詰まれば、供給が急に細るリスクもある。調達先は一国に絞らず、認証や記録の有無で選ぶ体制を整えておきたい。

関連記事

ブログ一覧へ戻る